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株式投資に向かう個人資産

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資産シフトが始まる

かつて、日本の個人金融資産は、現金と預貯金が中心といわれていた。狩猟民族である欧米に比べ、農耕民族の特性として「コツコツと貯め込むのが得意」というような理由付けもなされたが、国が支払いを保証するような「郵便貯金」や「簡易保険」といった金融商品が全国津々浦々で供給されていたのも一因だ。このため、日本人は安全資産に慣れ親しんでしまった面もある。

日本と欧米の個人金融資産の状況を2005年末で比較すると、日本の現預金は783兆円で、個人金融資産の51.9%を占め、依然として他国に比べ突出して多いのは事実(図1)。逆に米国は、株式などの有価証券合計52.5%で、日本とは好対照をなしている。しかし、かつては60%を超えるといわれた日本の現預金は、他の金融商品に着実にシフトしつつある。日本銀行の「資金循環勘定」をみても、2003年に56.0%だった現預金は、2004年に54.9%となり、2006年9月末時点では51.3%に低下してきている。

図1 個人金融資産(各国比較、2005年末)

現在、日本で始まっている資産シフトの受け皿となっているのが、有価証券だ。資金循環勘定においても、2003年11.2%だったものが、2006年9月時点では17.0%に上昇している。特に株式については、バブル崩壊後の株価低迷があったものの、個人株主数が一貫して増加していることからもみて取れる。NTT株式の上場で個人の株式投資熱が高まった1986年度に1628万5419人だった全国5証券取引所(東京、大阪、名古屋、福岡、札幌)上場会社の個人株主数が、2005年度には3807万9336人と2倍以上に増加している(図2)。1994年と1995年には一時的な減少があったが、1996年以降は10年連続で過去最高を更新している状況だ。

図2 個人株主数

個人投資家の裾野が広がっている背景には、預貯金金利の低迷が続いたことに加えて、1999年からインターネットによる株式取引が普及したことがある。1999年10月末時点のインターネット取引口座数が29万6941口座だったものが、2002年の後半から増加スピードが加速し、2006年9月末時点では1093万3480口座となっている(図3)。

図3 インターネット取引の口座数

情報開示と手軽なアクセスを求める個人

もちろん、市場における個人プレーヤーの増加は、市場環境の好不調に関連する。市場が好調でなければ、個人投資家は入ってこないし、個人投資家が入らないと、市場のパワーは限定的になってしまう。2000年前後にITバブルがはじけたものの、日本の企業は全体として構造改革を推し進めたことで、業績が回復した。加えて株主重視の姿勢が強まり、増配を打ち出す企業も多くなった。これが、個人投資家を市場に招き入れることに結びついたといえる。

東京証券取引所の場合、1部・2部とマザーズの合計で、2002年度の内国株券売買高は2162億9847万株、売買代金は181兆8848億円。これが年々拡大し、2006年度は2007年2月までで売買代金が607兆4534億円と、2005年の591兆2587億円を上回っている。

株式市場の好調は、債券や投資信託など他の有価証券にも影響を与えている。投資信託協会の統計によると、契約型公募投資信託の純資産残高は2006年末時点で68兆9276億円、2005年末比24.5%増となっている(図4)。残高全体の伸びはもちろん、中でも株式投信の急増が注目される。これには、規制緩和にともなう金融自由化の影響も少なくなさそうだ。1999年時点では、株式投信の販売は証券会社が91.2%を占めていた。しかし、銀行や生命保険会社などが扱うようになり、販売比率は大きく変化した。2006年では、証券会社の比率が48.4%であるのに対し、銀行等の金融機関は50.9%となり、初めて逆転した。公社債投信では、依然、証券会社が圧倒的な強さを示すが、変化は間違いない。

図4 契約型公募投資信託の純資産総額

個人が、自らの金融資産に対しての認識を変えつつある一方で、金融商品を取り扱うチャネル自体も変化している。かつてほどではなくなっているにしろ、証券会社と銀行等では客層は異なる。これが、リスク性商品に対するアレルギーがなくなった個人と相乗効果を生み出しているといえそう。投資信託会社各社は、純資産残高数千億円の旗艦ファンドを抱えるが、中には国際投信投資顧問の外国債投信「グローバル・ソブリン・オープン」のように純資産残高が一時5兆5000億円を超えるような商品まで生み出すようになっている。

gooリサーチが2006年2月に発表した「株式および株式投資信託に関する調査」結果によると、株式と株式投資信託への投資経験者は36.8%となっている。株式投資信託購入者は、小額でも購入可能で、運用をプロに一任できる点などを評価しており、購入後も、少なくとも月に1回以上の割合で購入した商品の運用情報を入手する人が56.5%を占めている。そのうえで、運用状況の情報開示に比較的満足しているとの回答が68.6%あり、適切な情報開示があることが、投資のための一つの条件であることを示している。また、今後の購入場所に関する質問では、ネット専業証券を挙げた人が69.7%に達し、証券会社窓口での対面販売の44.0%を上回っている点が注目される(図5)。

図5 今後の株式投資信託の購入場所

個人の投資行動が変化しつつある中、適切な情報開示と手軽なアクセスが求められている。金融機関は、こうしたニーズに的確に応え、動き始めた個人投資家をサポートしていくことが長期的にみても重要となってくる。

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