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日本人は貯蓄好き?

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世帯当たりの貯蓄現在高は増加しているが

野村資本市場研究所の調べによると、2006年第3四半期末の日本の個人金融資産残高は1495兆139億円(速報値)。2007年度の日本の一般会計予算規模が82兆9088億円であり、実に180倍という途方もない数字となっている。勤勉な日本国民が第2次世界大戦後の混乱から立ち直り、営々と築き上げてきた結果とみれば、誇らしくもあるが、ごく普通の生活者からみれば実感すらできない金額でもある。

もう少し身近に感じられるようにした数字が、総務省統計局による「家計調査(貯蓄・負債編)」で、2000年まで行われていた「貯蓄動向調査」を引き継いだもの(図1)。その「2005年年報」によると、全世帯平均による1世帯当たりの貯蓄現在高は1728万円。景気回復の影響もあってか、2004年に比べ2.1%あまり増加している。統計のとり方が異なるため、2000年までの「貯蓄動向調査」とは直接比較ができないが、1987年に初めて1000万円の大台にのった貯蓄がバブル崩壊後も基本的には増加基調をたどっていることは確認でき、数字の上では、「日本人は貯蓄好き」との説は依然健在のようだ。

しかし、詳細に見てみると、やや印象は異なる。平均値こそ1728万円であるものの、実際にはそれを下回る世帯が67.3%も存在する。貯蓄現在高の中位数をとると1052万円で、平均値よりも700万円近く少なくなる。しかし、それでも金額的にはまだまだ大きい。全世帯の中でもっとも多いのは貯蓄現在高200万円未満の世帯で、全体の14.1%を占める。しかも、前年に比べ、0.3ポイント増加しているというのが現状だ。

図1 貯蓄現在高世帯分布(2005年)

家計の可処分所得のうち消費しなかった割合、つまり家計貯蓄率において、日本が高い水準を誇っていたのは事実。1990年代前半は、他の先進諸国と比べても高い数値を示している。しかし、2000年代に入ると日本の家計貯蓄率は急速に低下している。低金利で年金生活者が預貯金を取り崩して生活費に回したり、勤労者などでも労働力の流動化や賃金体系の見直しで可処分所得が減少したことなどが影響したとみられる。「日本人は貯蓄好き」という定説はもはや過去の伝説なのだろうか?

環境変化に合わせ預貯金からシフト

実は、日本人の貯蓄性向の変質は、たしかにみられる。たとえば、生命保険。かつては、死亡保障に比重が置かれ、終身保険の上に高額保障の定期保険を組み合わせた「定期付き終身保険」が中心だった。だが、現在は保険料が小額ですむ医療保険などの生前給付型の商品ニーズが高まっている。「来世利益」よりも「現世利益」ということだ。先の家計調査における貯蓄構成比をみても、生命保険の比率は低下している。

現に、生命保険協会加盟各社の保険種類別契約件数の推移をみると、死亡保障中心の個人保険は新規契約・既存の保有契約とも減少傾向にあり、その一方で、年金保険は堅調となっている。特に個人年金の伸びは著しい(図2)。

図2 個人年金保険の契約高

貯蓄現在高の構成比の変化は、生命保険同様に有価証券にもみられる。ジャスダック証券取引所を除く、全国5証券取引所上場会社の2005年度の個人株主数は、前年度比268万人増の3807万人となった。200万人を超える増加は1989年度以来16年ぶりのことだ。株式相場の上昇で、新規に株式投資を始めた個人が増えたことと考えられるが、投資単位引き下げなどを行った会社が273社にのぼっており、トライアルしやすい環境だったということもできそうだ。

データをたどっていくと、日本人の貯蓄性向には変質はあるものの、「日本人は貯蓄好き」という定説が覆されたわけではない。経済環境などによって可処分所得が変化する中でも、貯蓄に対する意識は高く、変質しながらも基本的なスタンスは変わらないと考えられる。その理由の一つが、老後の問題。老後の生活についての考え方の調査によると、1991年に「心配している」という回答が「心配していない」という回答を上回り、年々乖離が広がっている状況にある(図3)。

同じように、成人に占める未婚者の割合が増加していることも影響しそう。50歳を超えても独身で暮らす「生涯未婚」も、1990年代半ばから男女ともに急増している。女性については、結婚の意思の有無とは別に、労働に対する意識が高く、資産形成にも積極的という傾向もある。このため、女性向け金融商品の開発も盛んだ。

図3 老後の生活についての考え方(世帯主が60歳未満の世帯)

所得や雇用など、社会的な要因に左右される部分もあるが、貯蓄の動機付けになる要素はかえって増えている。環境変化に順応しながら、「貯蓄好き」の遺伝子は日本人に受け継がれていきそうだ。

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