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日本の医療費は高いのか

32兆1111億円。2004年度の国民医療費の額である。前年度の31兆5375億円に比べると5737億円、1.8%の増加となっている(図1)。国民1人当たりに換算すると25万1500円。これも前年度比で1.8%増である。

この50年間、医療費はほぼ一貫して増え続けてきた。1994年度は25兆7908億円だったから、この10年間だけでも6兆円近く増えたことになる。このままのペースでいくと2025年には65兆円になるという予測もある。そのため政府と厚生労働省は躍起になって医療費の削減・抑制に努めている。1983年には厚生省(当時)の局長が、医療費が増え続ければ国が滅ぶという「医療費亡国論」を唱え、日本医師会から猛反発されたこともあった。さいわい、今のところまだこの国は滅んでいないが、政府があまりにも医療費削減ということを強調するので、国民の間にも「日本の医療費は高い」というイメージが刷り込まれているような一面がある。しかし、本当に日本の医療費は高いのだろうか。

図1 国民医療費

国民医療費が国民所得に占める割合は2004年度で8.89%。これも年々増える傾向にあるが、諸外国と比べてみると決して高い割合ではない。OECDの調査(2003年)によれば、国民医療費がGDPに占める割合はアメリカが15%と突出して高いが、そのほかにもスイス、ドイツ、アイスランド、ノルウェー、フランスの各国が10%を超えている。日本は経済規模が大きいので絶対額は大きくなるが、対GDP比ではOECD加盟国のなかで第17位と中位程度である(図2)。

家計に占める割合も同様だ。ここでもアメリカは突出していて、日本(3.6%)はイギリス(1.5%)よりは大分高いが、フランスやベルギーとほぼ並び、ドイツやオーストラリア、韓国などよりは低い水準だ(図3)。

図2 OECD諸国の医療費対GDP比率(2003年)

図3 家計消費支出の国際比較(2000年)

無駄遣いを減らすことが先決

医療費を財源別にみると国庫負担は8兆3619億円で、32兆1111億円の26%。つまり国は4分の1程度しか負担していないことになる(図4)。地方分も合わせると1000兆円を超える長期債務残高を抱えているから、政府が医療費を「減らせ、減らせ」という気持ちもわからないではないし、高齢化が進むと医療費も自然に増えていくからこのまま放っておくわけにはいかないことも理解できる。しかし公共事業費は80兆円を超えているし、パチンコは30兆円産業である。だったら医療費にそう目くじらを立てることもないのでは、という気にもなろう。

図4 財源別国民医療費

もっとも医療を受ける側のわれわれ国民も、医療費が安いと思っているわけでは決してない。というより、受けるサービスの質に比べたら高いというのがより実感に近いのではないだろうか。さんざん待たされた挙句の3分診療、医師のわかりにくい説明、横柄な態度、ドクターハラスメント。少子化問題がこれだけ騒がれているにもかかわらず産科が減り続け、いまや出産に対応しない大病院もある。日本の国民保険制度は世界的に高く評価されているが、保険料を払っているのだからもっときちんと対応してくれと思っている人は多いはずだ。

一方で諸外国に比べると異様なほど長い在院日数など、"医療費の無駄遣い"も目立つ。英国や米国の平均在院日数は10日を切っているのに、日本はなんと36.4日と1ヵ月以上も入院しているのだ(図5)。入院している必要はないのに、介護する人がいないなどの理由で退院できない社会的入院の多さなども、医療費の増加を招く一因だ。CT(コンピュータ断層撮影)装置は安いものでも1台数千万円する高額な商品だが、全世界のCTの3割程度が日本にあるといわれる。そうした高額な医療機器を導入し、元を取るために検査漬けにするという病院批判は昔からある。

図5 平均在院日数の各国比較(2003年)

医療費を抑制しようというのなら、まずこうした諸問題を解決すべきではないのか。それをしないで国民の負担を増やすばかりでは、単につけ回しをしているのと同じだろう。「たいした病気でもないのに高齢者はやたらに病院に行く。だから高齢者の負担を重くしよう」というのでは、あまりにも発想が貧困すぎる。もしそれが事実なら、病院以外に高齢者の行く場所がないことが問題なのだ。医療は社会インフラである。社会全体の問題としてトータルにとらえる視点がないまま医療費を減らそうとしたら、医療制度そのものがますます病んでいくことになってしまうだろう。

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