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森林、世界の問題、日本の問題

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砂漠化問題と熱帯林問題の共通項

2007年春の黄砂は、日本にいてもすごかった。前夜、激しい雨だったのに、朝になってクルマの屋根を見ると、びっしりと砂埃が貼り付いている。雨粒に黄砂が混じっていたのだ。北京にまで砂漠化が迫っているというニュースを肌で感じる。

中国の国家林業局によれば、砂漠化した土地は中国全土の約18%に当たるおよそ174万平方kmに達し、4億人の暮らしに影響が及んでいるらしい。砂漠化まではいっていないが、退化しているという土地になると、全国耕地面積の3分の1にまで進んでいるようだ。その結果、以前は年平均20回程度だった砂嵐が近年は約35回に増加しているという。高く舞い上がった砂が風に乗って、日本のクルマを黄色く覆うわけだ。

土地の退化は中国のみならず、東北アジアから中東にまで広がる弧状地域が共通に直面している問題である。いささかデータは旧いが、この数字よりも改善されているとは考えられないので、そのままご紹介すると、耕作可能な乾燥地における砂漠化地域の大陸別の割合はアジアが最大で36.8%に達する(図1)。とはいえ、アフリカも29.4%であり、現象は南北アメリカ大陸やオーストラリア大陸などでも進行していることを考えると、もはや地球規模での問題と言えるだろう。砂漠化の影響を受けている土地の面積は地球の全陸地の約4分の1、影響を受けている人口でも約6分の1にもなる。

図1 砂漠化の現状

砂漠化の原因は、単なる干ばつ等の自然現象ではない。頭に「過」の付く人間の営為......即ち、過放牧、過耕作、過度の薪炭林伐採、そして、誤った灌漑による農地への塩分集積等が複合しているといわれている。土地の退化・砂漠化が環境問題であると同時に貧困の問題でもあるとされる所以だ。その意味で、砂漠化の問題は熱帯林の問題とも共通する。日本など世界59カ国が加盟する国際熱帯木材機関(ITTO)によれば、毎年1200万ヘクタールの熱帯林が、農地や牧草地への転換、違法伐採等によって消失している。一時的に伐採しても修復すればよいのだが、アジアや中南米、アフリカなどの計33カ国を対象に調査を進めたところ、保護の手が行き渡って健全性を維持したまま利用されている持続可能な熱帯林は、2005年時点で全体のおよそ5%。日本の面積にほぼ等しい約3600万ヘクタールだけで、残りの95%は適切な管理が施されずに乱開発の危険に晒されている。

国連食料農業機構、FAOによれば、2000年時点の世界の森林率、つまり、世界全体の土地面積に対する森林面積の割合は、130億6000万ヘクタールに対する38億7000万ヘクタールで、3割弱だった。前述のように人々の暮らしと密接に関わっているため、その保護は簡単ではないが、森林は種の多様性を確保するための貴重なインフラであり、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素の吸収源でもある。地球全体の財産としての、いっそうの取組みが望まれる。

京都議定書を森林で守る

世界から日本に目を向けると、森林率は64%にも達している。実際、海外からの帰途の飛行機で日本列島を見下ろすと、緑の濃さにあらためて気づく。渇いた土地を見慣れた目には、列島全体が密林だ。アジアの森林率は広大なシベリアを含めても2割以下。日本はアジアの貴重な例外なのである。(表)

表 世界各国の森林面積

とはいえ、その日本も国民1人当たりの森林面積となると、途端に分が悪くなる。わずかに0.2ヘクタールで、これはアジアの平均数字と同じだ。北央アメリカは1.1ヘクタール 、欧州計は1.4ヘクタール、オセアニアは実に6.6ヘクタール。確かに、生活実感からしても、緑たっぷりの国に暮らしているという感じはしない。

森林の内容に分け入ると、さらに問題が目立ってくる。通常、森林に関する問題と言えば、過伐採などのように人間の関与が過度になることによって引き起こされるものなのだが、日本の場合は、人間の関与がなさ過ぎることによって生じている。林野庁によれば、2005年における森林資源に占める人工林の比率は、面積で約41%。一方、天然林は約53%。ところが、森林は縦に伸びるものだから、容積に当たる蓄積で量ると、天然林が41%で、人工林が59%と逆転する(図2)。

図2 我が国の森林資源の推移

人工林というのは、つまり、間伐などの適切な施業がなされなければ水土保全機能が発揮されにくい森林である。2003年のスギの山元立木価格はピーク時の2割近くの水準にまで下がり、しかも人件費は上がっているため林業経営は極めて厳しい状況に追い込まれている(図3)。そのため、適切な施業が望めずに、多くが放置され、樹木の高齢化も進んで、病害虫などの被害も深刻になっている。

図3 スギ1立法メートルで雇用できる伐木作業者数の推移

実は、日本は、京都議定書で決まったCO2の削減目標......1990年時点の排出量の6%削減を達成するための手段として、森林に3.9%吸収させようとしている。つまり、過去の木材生産の論理のみで、日本の森林の行方が決まることは許されない。このため、2002年に「地球温暖化防止森林吸収源10カ年対策」が構想され、森林の存在理由そのものが再構築されて、さまざまな施策が打ち出されている。森林に期待する役割を問う世論調査でも、1980年に2位だった「木材生産」は2003年には8位にまで下がり、代わって、1999年以前には9位までに顔を出していなかった「温暖化防止」が、トップの「災害防止」に次いで2位にランクインしている(図4)。

図4 森林に期待する役割の変化

100年先を見通した森林づくりが直ぐにその全体像を見せるはずもなく、山村の過疎化・高齢化等の問題も厳しいものがあるが、しかし、近年、森林ボランティアが増加し、新規林業就業者も目立って増えているという事実もある。健康な森林が日本列島に、そして世界に広がることを期待したい。

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