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大学淘汰時代の到来

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誰でも入れる「大学全入時代」

戦後、年々上昇を続ける日本の大学進学率は2006年に52.3%と過去最高を記録し、いまや高校生の半数以上が、大学または短大へ進学する時代となっている。大学進学率は世界的にも高い水準を保っているが、その一方で少子化の影響から高校卒業・大学進学期である日本の18歳人口は、1992年の205万人をピークに年々減少の一途。2006年には133万人にまで激減し、この先も先細る一方だ(図1)。

図1 大学・短期大学への進学率の推移

そんな彼らを受け入れる大学は今どうなっているのだろう。1990年代、文部科学省の認可基準緩和によって空前の大学新設ラッシュが起きた。文部科学省の「平成18年度学校基本調査」によると、2006年の大学数(国公私含む)は744校で、前年度より18校、10年前と比べると168校も多く、大学新増設の流れは今も続いている(図2)。

図2 大学の設置者別学校数

子供は減り、大学は増える。その結果導かれるのは、大学入学希望者数と定員数が同じ、または希望者数が下回る「大学全入時代」の始まりだ。つまり、数値上では志願者全員が大学に入学できる計算になるということで、中央教育審議会はこの大学全入時代が2007年度に突入すると試算している。そのため、教育分野では数年前から「2007年問題」や「2007ショック」と呼び、さまざまな対策を講じてきた。実際には景気回復による受験者数の増加で、全入時代は数年先に先送りされたようだが、大学に誰でも入れる時代が訪れるのは時間の問題といえる。

多様化、専門化で生き残りをかける

とはいえ、大学全入はあくまで「えり好みしなければどこかの大学に入れる」だけであって、「全員が志望校に入れる」わけではない。現に最近では、一部の有名私大に志願者が集中する傾向が強まる一方で、各地の大学で定員割れが進むなど二極化が進んでいる。

大学全入元年といわれる今年、大阪の関西大学で志願者が初の10万人突破を記録したのを筆頭に、関東・関西地区の有名校が軒並み志願者数を伸ばした。一方、日本私立学校振興・共済事業団の「平成18年度私立大学・短期大学入学志願動向」によると、2006年に定員割れした私立4年制大学は全体の40.4%で、前年度より10.9ポイント上昇し、過去最高を記録した(図3)。山口・萩国際大学や北海道・小樽短大などが経営難で民事再生法を申請、2007年から学生募集を停止して2009年の廃校に向けて他校への学生受け入れを進める福岡の東和大など、特に地方での定員割れは深刻な事態となっている。

図3 定員割れ私立大学数の推移

少子化に加え、高度化・複雑化する社会のニーズに密着した高等教育が求められる大学は、生き残りをかけて大胆な大学改革に着手している。たとえばキャンパスの統廃合を進める大学や、大学・学部を新増設したり、ユニークな入試制度を導入したりする大学も増えている。

文部科学省認可による2007年度の新設校は、城西医療科学大学はじめ大学12校・短大2校。学部増設は24大学、学科増設が4大学・6短大。特に顕著に現れているのが「理工学部の改編」と「医療・看護系、幼児・初等教育系の新設ラッシュ」で、学生の工学系離れと少子高齢化社会を見据えた人材育成強化が如実に表れた形となっている。

また、従来の筆記試験とは異なり、志願者の個性や能力を見極めるユニークな入試システムを取り入れる大学も増えてきた。特にアメリカでは一般的な「AO入試(アドミッション・オフィス入試)」は、1990年に慶応大学が導入して以来急増している入試システム。方式については特に規定はなく、数学1教科のみ、試験5時間というAO入試を導入した東京工業大学のように、各大学が独自に決定している。

さらに新設されるのは大学だけではない。近年際だっているのが「大学院の新設」だ。2003年度より、高度で専門的な職業能力を持ったスペシャリスト育成に特化した「専門職大学院」の設置がスタート。いわゆるロースクールである法科大学院をはじめ、2006年度で140専攻が設置されるなど急増している。

大学にコンビニ!あの手この手の構内サービス

専攻やカリキュラムだけでなく、キャンパス自体にも変革の波は起きているようだ。より広い敷地を求めて、手狭な都市部の校舎から郊外へと引っ越すケースが多かった大学だが、最近は学生の利便性を意識して郊外から都市部へキャンパスを移転したり、サテライトキャンパスを設置したりと、都心回帰へと逆転。明治大学や法政大学、東洋大学など、東京・大阪を中心としたキャンパス移転が今後も続く予定。

また、若者の生活に欠かせないコンビニエンス・ストアが、大学構内で続々オープンしている。コンビニの大学参入は2004年に京都大学で「ナチュラル・ローソン」が開店したのを皮切りに、東京大学や金沢工業大学など全国で広がっている。

近代日本の大学教育がスタートした明治時代、大学は限られたエリートしか通うことの許されない聖地だった。「末は博士か大臣か」と囁かれたのも今は昔。多様化・グローバル化が進む現代で、新陳代謝が遅れる大学はどんどん取り残されていき、学生自身も受け身教育から積極的なキャリア獲得が求められる。大がかりな大学革命は当分続きそうだ。

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