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おコメの危機

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産業としての米づくりの危機

美しい「棚田」をはじめ、次々に荒廃し失われていく日本の伝統的田園風景。残された水田で働く人々の60%近くは65歳以上の高齢者である。このままでは日本の米づくりが立ち行かなくなるというおコメの危機が叫ばれて久しい。危機の実相をノスタルジーなどではなくリアルに示しているのが、米の生産コストと販売価格の"逆ザヤ"状況だ。

農林水産省「農業経営統計調査平成18年度米生産費」よれば、米の1次生産コスト(物財費と労働費合計)は、1俵60kgあたりで平均1万3000円ほど。これに地代や借入金利子などを加えた2次生産コストは1万7000円ほどになっている。これに対して販売価格は、この数年1万5000円前後(全銘柄年産平均価格)で推移しており、そこから2000円前後の物流経費を差し引いた1万3000円ほどが米作農家の手取り額となる。つまり全国平均で見ると、米作農家はようやく1次生産コストを回収するだけの収入しか得ていないということになるのである。

もちろん、販売価格は毎年の作柄などの要因によって大きく上下し、2003年度には1俵(60kg)2万1000円台という高価格を記録したこともあった。しかし、この10年間で2万円台を超えたのはその年1回だけである〔図1〕。しかもその価格も2次生産コストからいえば、1俵あたり3000円の利益が出るに過ぎない。

図1 米穀の年産別落札銘柄平均価格の推移のグラフ

ところで1俵あたりの生産コストは、経営規模(水田作付面積)が大きくなるほど下がる傾向がある。たとえば作付面積が10〜14haという全国平均の10倍以上の経営規模になると、1俵あたり1万1000円程度にまで下がる。つまり、大規模経営の米作農家はなんとか利益を出せるが、まだ圧倒的な割合を占める中小零細規模の米作農家は慢性的な赤字から脱却できず、将来展望も特にないというのが米づくりという産業が抱えている現実なのである。

このような現実があるからこそ、農林水産省「平成20年農業構造動態調査」では2008年2月現在、米づくりを行う農家総数はピークとなった1950年の618万戸から252万戸に、その就業人口がピーク時1960年の1454万人から299万人にまで激減しているともいえるだろう。ちなみに農林水産省は、現在197万人いる主な仕事が農業という「基幹的農業従事者」が、2015年には90万人にまで減ると予測している。

下げ止まらない米消費量

おコメの危機は、米づくりだけでなくその消費量にも如実に示されている。

この40年間、米の消費量は一貫して落ち続け、1965年には国民1人が1年間に111.7kg食べていたのに対して、現在では60kgそこそことほぼ半分の量しか食べていない。その結果、米の全消費量も最盛期の年間1400万トン台から近年の900万トン前後へと500万トン以上減少していた〔図2〕。

図2 米の国内生産量・消費量、国民1人あたり1年あたりの消費量のグラフ

こうした米の消費減は、敗戦後の学校給食でのパン採用を皮切りとしたパン食の普及、高度成長期に深く浸透した食全体の洋風化、1970年代前半から発展した外食産業、高度消費社会への進化に対応した食の多様化など、戦後一貫して続いてきた日本人の食生活の大変化と表裏一体をなしていた。バブル崩壊後の1990年代にはその変化の波も落ち着き、米消費量も下げ止まることが期待されたが、実際には図2にあるように年間1000万トン割れし、2000年代には900万トン割れにまで至っている。

少子化による総人口減がいよいよ現実になり、総人口に占める高齢人口の割合がますます高くなる今後は、米消費量が下げ止まる可能性は限りなく小さい。まだしばらく、その消費減は続いていくことになろう。そう簡単に米が日本人の主食の位置を明け渡すとも思えないが、すでにかつてのように絶対的な存在ではないのである。

危機回避の決め手は生産調整と需要創出

図2からは、米の消費量が毎年連続的に減少しているのに、生産量は急減や急増を繰り返して調整を計ろうとする政府の思惑とは裏腹に、なかなか単純には下がってこなかった様子が見てとれる。それは生産量が天候に左右され、製造業のように短期間で生産計画を変更することが難しい米作ではある程度しかたがない。しかし現在の消費量なら、全水田面積の6割で生産可能とも言われている。そうした「潜在的な供給過剰状態」にあることが米販売価格の押し下げ要因として働き、ますます米作経営を困難にしていることもまた確かだろう。

生産過剰というおコメの危機の回避策として、減反、転作など、全体としての米の生産量規制(生産調整)が必要なことは明らかである。生産調整に対してはやる気のある米作農家からは批判の声も上がっているが、基本的には、米作経営の急激な破綻を避けつつ大規模化という構造改革を実現するために不可欠な方策でもある。

一方で、おコメの危機を回避するには、米の消費量の減少にもどこかで歯止めをかける必要がある。その点で期待されるのは、主食用でない加工用および飼料用の国産低コスト米などとともに、近年の食の安全志向から生まれた国産志向、小麦の国際価格高騰などに対応する「コメ消費回帰」の動きだ。日本政策金融公庫の調査によれば、「パンや麺の値上がり、米の値下がりを機に米の消費を増やす」という意識が急激に高まっている〔図3〕。その動きに応えるには、大規模化による生産コスト減に向けた努力をさらに続け、米作経営を安定的に維持できる水準で可能な限り販売価格を抑制していく必要がある。

米作農家にとって決して楽な道ではないが、当面の生産調整と需要創出がおコメの陥っている隘路から脱出する唯一の希望といえよう。

図3 小麦値上げを背景にした今後の米消費量のグラフ

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