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データで検証する日本の「医師不足」

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医師の「絶対数」不足

2007年から2008年にかけて、救急搬送された妊産婦を受け入れる病院が見つからず、胎児や母親が死亡する事件が続いた。救急医療体制や地域医療体制の不備、その背景要因としての医師不足を指摘する声が高まっているが、いくつかのデータに基づいてその指摘を検証してみよう。

1つめの検証したいのは「医師の絶対数」である。

厚生労働省による「医師・歯科医師・薬剤師調査」によれば、2006年12月31日現在、全国の総医師数は27万7927人。ただし現役、つまり病院や診療所で医療活動に従事する医師は26万3450人と医師総数より少ない。つまり、1万4400人ほどは医師免許を持っているものの、すでに引退しているか別の仕事についていると考えられる。

医師数が多いのか少ないのかを判断する目安となるのが、OECD(経済協力開発機構) が毎年とりまとめている加盟国のヘルスデータにある「臨床医密度(人口1000人あたりの医師数)」(2005年)だ〔図1〕。

図1 臨床医密度(人口1000人あたりの医師数)2005年のグラフ

OECDはアメリカやEU諸国のほか日本、メキシコ、チェコ、韓国などを含む先進30カ国が加盟する"先進国クラブ"とでもいうべき組織だが、そのデータによれば日本の臨床医密度は2.0人となっている。この人口1000人あたり2.0人という医師数は加盟30カ国中27番目に位置し、2.0人に満たない国はメキシコ、韓国、トルコとなっている。加盟30カ国の平均は3.0人。国によっては診療をしていない資格を持つ医師や歯科医数を含んでいたり、2004年のデータだったりと多少バラつきがあるものの、日本の総医師数が先進国の中では「少ない」ことだけは明らかと言えよう。

「地域格差」の問題

2つめに検証したいのは、「医師の偏在」である。

救急患者の受け入れ拒否など医療体制の不備が明らかになった時、「医師不足」より「医師の偏在」のほうが問題視されることがある。都市部では医師が足りているが、地方では足りなくなっているという見方だ。

厚生労働省がまとめた都道府県別医師数データ(2006年12月末現在)によれば、人口10万人あたりの従業地による医師数は全国平均の206.3人に対して地方に限らず、首都圏近郊の神奈川で170人台、埼玉、千葉、茨城などでも130〜150人台と、地域による医師数格差は存在する〔図2〕。この医師数の地域格差が、診療科や病院の閉鎖という事態を生むなどして、受診する側の医師不足という認識に拍車をかけていることは間違いない。

図2 都道府県(従業地)別にみた人口10万人あたりの医師数のグラフ

しかし、人口10万人あたりの医師数が最も多い京都府で272.9人、東京都でも265.5人となっており、人口1000人あたりに換算するとOECD平均の3.0人に達していない。医師数の地域格差という現実は確かに存在するが、その前に医師の絶対数の不足という現実があると認識すべきではないだろうか。

過酷な労働環境と赤字病院の増加

医師の絶対数の不足が、やはり問題なのではないかという3つめの検証を裏付けるのが、「医師の1週間の労働時間」〔図3〕のデータだ。これは、日本医療労働組合連合会と日本自治体労働組合総連合会が共同で行い2007年4月にまとめた「医師の労働実態調査」である。全国33都道府県、約180施設の医師からの回答を見ると、労働時間が法定の週40時間以内にとどまる医師は13.9%、過半数を超える医師が週に57時間以上働いている。週73時間以上という医師も15.0%に及び、「過労死」という現実が起こりうる過酷な労働状況にあることがうかがえる。この結果を現場の医師数の不足が原因と、とらえることもできるだろう。

図3 医師の1週間の労働時間のグラフ

日本は人口1000人あたりの医師数が2.0人と少ない一方で、OECDがまとめた「国民1人あたりの年間受診回数」は13.7回と加盟30カ国中で最も多い。医師数の多いEU諸国の5回〜7回と比べても突出して多くなっている。その要因を特定できるデータは見つからないが、医師の過酷な労働の背景には、絶対数の不足に加えて「受診数の多さ」も少なからず関係していると考えざるを得ない。この点では、安易な時間外受診(コンビニ受診)を控えるなど、受診する側の意識改革も必要だろう。

こうした現実に対応して、すでに政府は医師の増加策や地域格差の是正策に着手しているが、同時に病院経営を改善するための施策を実行する必要もありそうだ。

日本病院団体協議会が2007年10月にまとめた「病院経営の現況調査」報告によれば、2006年度の赤字病院は調査に回答した全国2837病院の43%(前年度比6ポイント増)に上った。中でも「自治体立」病院の370病院(92.73%)、「国立」の88病院(69.29%)が赤字という結果は問題の深刻さをうかがわせる〔図4〕。

図4 開設主体別医業収支(医業収益/医業費用)のグラフ

これまでの総医療費抑制という大義名分に端を発する国の施策が病院経営を傾かせ、それがまた医師不足の問題を際だたせる結果となっている。かつて世界の趨勢は、国の医療費をいかに抑制するかだったが、最近は医療の質と安全を確保するためには、必要な医師数と医療費をかけるべきだと方向転換している国も多い。検証したように日本の医師不足は、増やせばいいという単純な数の問題ではない。そして、医療の現場は、「医は仁術」という精神論や医師の心がけでは、もはや乗り越えられないところにまできている。日本政府および厚生労働省は山積する医療問題を解決するために、より望ましい医療制度の実現に向けて舵を切るべきである。

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